座談会 家庭用品業界の今 【リビングタイムス主催 】②
(座談会②)
石川石川宣博・中山福社長 「流れ」コロナが加速/帳合い打破していかねば
池田克也・梶原産業社長 コロナで需要先食い/遠隔地もオンライン商談
高木満郎・髙木金属工業社長 特需に慢心しない/PB商品に負けない「専業」
吉川利幸・吉川国工業所社長 PB商品に勝とう/社員のスキル上がった
池永一雄・池永鉄工社長 もの作り集中へ/情報収集・交流活発に
猪又晶介・イノマタ化学社長 メーカー姿勢毅然と/取引関係の立場尊重を
――リモートワーク(在宅勤務)、オンライン商談はどのようにされてますか。
猪又 導入活用していますが、商談としては少し味気ない面も感じており、対面商談に比べて世間話を交わす雰囲気になりづらいように思っております。ほとんどの商談はリモートで行ってますが、人同士のコミュニケーションとしてはちょっと味気ないかなと感じてます。
石川 今後、オンラインも従来式のリアル商談も両方並立すると思います。
やはり、面と向かって話さないと本音のところがうかがい知れないし、互いの腹を割った話もしにくい。内容も深まりにくいでしょう。
遠隔地まで出向き経費と時間のコストを掛ける必要もなく、それで足りる分にはオンライン商談でいい。上手に使い分けて、異種混合の営業スタイルすればいい。
これまでは「リモートでやりましょう」という事案であっても、小売業にも納入業者にも、互いに受け入れられる土壌が形成されていなかった。今や、「ウェブで済むなら、ウェブで商談しよう」という現状ですね。
猪又 私も両方が維持されると思ってます。商談が駆け引きめいた内容であればリモートは不向きなのではないかと思います。
髙木 目的が希薄な惰性の営業はいらないということでしょうか。内容が薄く、営業担当者として顔出し程度の訪問なら不要という考えが一般化すると思います。
――イノマタ化学では年間出荷個数が100万から200万個という猛者級の商品が複数あると伺ってますが。
猪又 確かににいくつかの商品がそのような出荷数量でございます。まずは商品がいかに売り場に並べられて、消費者の目に留まるかという要素も大きく起因していると思います。
販売個数が年間200万個とは1日当たり5000個~6000個ぐらいの数量で、500店舗で1日1個ずつ売れれば達成できます。国内の均一業界や貿易(輸出)の2つの販路で実現できる数字です。
――小売業について、最近の印象を。
猪又 成長している小売業の共通点として感じているのは、新規出店やキャンペーンに伴う協力要請や返品がほとんどないという点です。
そういった要請に応えるメーカーもあるでしょうが、そこに掛かった経費は商品価格に転嫁されます。正味の商売でやれば消費者もリーズナブルな値段で買えるということにつながると考えております。
多店舗展開の小売業のA社、B社は商談時の価格についてはシビアな時もあるが、「売れ残ったから返品する」といったことはない。いまだに返品や協力要請をしているような小売りは時代遅れに感じております。
――コロナ禍の最中、中山福では10月20日から3日間、横浜パシフィコで見本市を開きました。これについて、今一度、主催者の弁を。
石川 商談は、実物に触れらないとまとまりにくいという一面もあります。かといって、見本市が感染拡大の場になってはならないという大前提での開催でした。
そのため、会場構成は密にならない空間の設営を徹底しました。出展メーカー数の限定もある程度させていただくなど、主催者として事前に考えられることはほぼやり尽くした上で開催に臨みました。
見本市の開催がバイヤーにもメーカーにも商品にまつわる情報提供につながった――こういう評価をいただきました。
商談や出張を解禁されている得意先小売業は全体の約3分の2程度で、残りは禁止されています。バイヤーやバイイングラインの方たちは「会社からOKがでない」ケースでも、情報提供は強く望んでいます。
見本市に来たくても来られなかった方々への情報提供は、問屋の営業担当者の大事な役割の1つだと考えています。社内でもその点を指示しているところです。
――コロナ禍でのリアル店舗とネット販売の関係はどうなってきたのでしょう。
石川 消費者の行動も変わり、リアルからネット販売への流れが加速したと思います。流れとしてはすでにあったのですが、2020年は、コロナ禍が流れを加速しました。商談のスタイル同様に、消費者の購買パターンも全部ネットに流れてしまうというわけでもなく、賢く両方を使い分けていくのではないでしょうか。
この流れはおそらく戻らないでしょう。商品を提供する側もそれにふさわしい対応が必要だということを感じる1年でした。
リアル店舗が縮小しかねない中で、さらに大きい地殻変動が起きているようですし、私たちがどう対応していくかがこれからの大きなテーマでしょう。言えることは「今まで通りにはいかないぞ」ということ。
池田 コロナ禍が梶原産業に与えたイノベーションを考えてみました。巷で言われているようにニューノーマル(新しい「平常」)、従前の発想や既成概念にとらわれていたら企業の業績は現状維持することさえ難しくなります。
家庭用品業界にはフォローの風が吹いていますが、消耗品以外は需要の先食いと思われます。ある商品を買ったとして、たまたまコロナ禍で買い替え時期が早まったのであって、新たに追加された商品の動きであり、消費行動ではないと思われます。
だから商品ごとの売れ方を分析することが大事。「コロナ禍でフォローの風が吹いた」と現象だけをとらえるのでなく、どういう消費行動の中でその商品が売れたかということを分析する。
2021年を展望する上で雇用やデフレ、景気の好悪なども織り込んでいかなければと思います。
――コロナ禍でのメリット、ディメリットは。
池田 社員の移動に要する時間が減ったのはメリットです。商談の工夫や深掘り、企画書の作成は得意先への提案段取り、対面・商談を前にサンプル品を送っておくなど、これまでとは違った手順や商談スタイルへの備えが問われました。
当社から遠隔地にある得意先様に対しても、オンライン商談の導入で週1回の交流ができています。商談頻度が上がった。
ネットを活用される得意先が増え、その売上比も高くなってきました。
――リアル店舗の得意先は今どんな声を上げてるのでしょう。
池田 リアル中心の得意先様からはより一層厳しい要望として、例えば「値入の改善」があり、さらに「いかに売れるのか」という声も寄せられています。売れ筋商品の動向や同業他社での成功事例などもほしいと。
ターミナルの好立地の店舗だが、コロナ禍の影響を受け、「ほかのお店ではどうなってるの」というと問い合わせもいただきました。
商品の価格の二極化やコストパフォーマンスの度合い、安くていい商品、高額でも使い心地や利便性の高い商品といった、コスパの度合いを意識することが必要です。
商品の内容、素材や機能性能、デザインなど、既存品との違いメリットなどの詳細を望まれています。サービス産業と情報産業を併せて提供する企業という認識が大事です。
――髙木金属工業はコロナ禍で業績を上げられた。
髙木 コロナ禍特需の反動が来るでしょう。てんぷら鍋などは1度買えば買い替え需要は何年か先になるでしょうし、消費者の所得減少や景気後退を考えると、今後の売れ行きの減少は避けられないでしょう。特需の恩恵があった商品については、今後売れ行きが落ちるであろうと思われます。
しかし、弊社ではろ過フィルター付きオイルポットの売上が大きく伸びたことで、今後は交換用ろ過フィルターのリピート需要が増加するだろうと思います。
また、フッ素樹脂加工のトレー類はフライパンと同じような半消耗品的な商品ですから、今後の買い替え需要が見込まれます。
このように、商品によっては引き続き売れ行きの増加を見込めるものもあると考えています。
コロナ禍の特需だからといって特定の商品だけに生産を偏重させるのはメーカー本来の姿勢ではなく、もの作りはじっくり実直に励むことが大切であると考えています。コロナ禍を意識し過ぎたもの作りは危うい方向に向かいかねないと思います。
髙木金属工業ではブランディング構築までは考えていませんが、買って頂いたお客様にリピートしてもらえる商品を作っていきたいと思っています。「使ってみたらすごく良かったので、次回も買いたい」という評価を頂ける商品作りですね。
「今後は安い商品に流れていくだろう」という記事を読みましたが、「安い」というだけの商品はやがて淘汰される。メーカーとしては「いいものを安く」「こんなのが欲しい」と評価される商品を作る努力が必要かと思います。
また、販売店や問屋のPB商品が益々増えてきていることにより、私たちメーカーは売り場を失い、大変苦戦しています。メーカーは、メーカーならではの発想力と企画力で独自の商品を開発していかなければ、メーカーとしての存在を維持し生き残っていくことが出来なくなるだろうと思っています。
吉川 小売店が作るPB商品の売り場と対峙して、メーカーと問屋の連合で作る売り場が勝たなければいけない。
猪又 小売店のPB商品は小売店が独自にアイデアで開発したものでない。われわれメーカーの商品に似せたものです。値段では勝てないけど、全体評価ではメーカー商品が勝っています。
――小売業のPB商品に対してメーカーとしてどのように解決策を見出していきますか。
吉川 ブランド力、商品力、商品企画から物流まで含めた全体品質のレベルを引き上げる。欠品や納期の遅延などなども含めていかに良くするか。
他社製品との違い、メーカーとしてもの作りへのこだわりを生活者や小売店にもどう知ってもらうか。問屋と一緒に生活者に伝える工夫をしていきたいと考えています。
一定レベルで売り場構築がなされたら、「勝手に売れていく商品」とでも言いますか。
ポイントは、「安くするから仕入れて」じゃなくて、こだわった商品を作り、選ばれる売り場への環境整備や情報の提供をするが、バイヤーに向かうのでなく、生活者に振り向けるのです。バイヤーには「消費者はこんなものを欲しがってます」と伝える。必要な電子ツールのコストも共に負担し合う。
――今回のコロナ禍、どう乗り切りました。
吉川 複数の取引がキャンセルとなり、当社にとって大きな危機でした。乗り越えられたのは社内情報の共有化と、迅速に方向転換できた社員たちの努力でした。結果、企業力が上がったという受け止めています。リモートの活用で時間の使い方にメリットを見出しました。
出張のできない海外担当者がどうやって新商品を売り込むか。商談相手が現物に触れられない中でどうやって売り込むか。サンプルを依頼される前段での交渉がとても大事でしたし、営業担当者にとって真剣勝負、一発勝負だったけど、彼らのスキルは上がったと受け止めています。
この成功事例は国内担当者にも共有化してほしい。
池田 梶原産業は2020年10月の会議で、コロナ後の戦略について話し合った。1品でなく、関連商品などを含めて「面」提案をしよう、というものでした。
問屋には帳合いという現実的な問題がありますが、帳合いは違うが、売り場を面として構築できるのなら異企業間で提案をさせてもらえればいい。売り場が活性化し、良い結果が見込めるなら、帳合にとらわれない発想の転換をしなければいけない。そういう議論をしました。
消費者にささえられてこそが商売です。小売店も売上が上がればわれわれに対する信頼信用も高まる。
石川 「帳合い」は打破していかなければいけない慣行ですね。消費者のハートに響く売り場を作ろうとする過程で、帳合いの違うベンダーを混ぜながら売り場を盛り立てていく。今後の大きな課題の1つです。
池永 コロナ禍の中、近未来図を描くのが難しくなってきました。ウイズコロナで臨まなければと考えています。自社の進むべき道筋と機軸はちゃんとしておきたい。
もの作りに力を集中させないとメーカーとしての存在意義がありません。今以上に力を注ぐのが私自身への課題であります。
当社の商品は量産型でなく、しっかりした売り場で、消費者にメッセージを伝えてストーリーのある商品をきちっと作っていきます。これを肝に銘じてます。
構成比率は海外が35%強、国内が65%弱。2020年はインバウンド需要はゼロに近かった。中国市場の購買力は落ちてはいるが、それなりに維持できました。北米市場向けは販売力が落ちなかったのは想定外で、当初、生産調整をするなど不安視してたのですが、結果的には良かった。
――2021年に向けては。
池永 いろんな方々との協業、コラボレーション、情報収集も含めた交流を図っていきます。
消費者の声が直接入り、商品開発にも反映させていきます。消費者が手にとって本当に必要とされる商品を作っていきます。
課題では人材育成、新規事業、消費者に向きあう、経営運営に営業担当者を触れさせた結果、違った形であるが、結果も現れつつあります。今年はいろいろ考える1年でありました。
猪又 販売店は商品の独自性を求める傾向を持っており、競合販売店がどんな商品を扱っているのかを鋭くリサーチをして、同じイノマタ化学の製品を扱っていてもスペックの違いや価格のお得感を求めてくることがありますが、メーカーとしてはあまりそれに振り回され過ぎず、バランスを保って付き合っていかなければならないと考えております。
これまで商売をしてきた中では販売店による当社の模倣品が販売されていたことがありましたが、逐次、お話し合いや内容証明を送付するなどのやり取りで解決を図ることができました。
その販売店には当社の正規品を扱っていただくなど、商売の関係もこじれることなくできております。
――メーカーは主張する姿勢が大事。
猪又 やはり顧客の大小や相手によって対応を変えるのでなく、相手の立場や言い分も理解しながら、自分の信念を持って対応していくことが肝要だと思ってます。
納入先の言い分を圧力と感じ、へりくだったままでは被害を被るのはメーカーのほうだと思います。沈黙せずに主張する姿勢は互いの立場を尊重し合うビジネス本来の在り方だと考えております。
販売店から問屋を経由してメーカーへの要請は、時には行き過ぎた圧力となって下請法の優越的地位の濫用にもなりかねません。
メーカーは商品化するまでに多大なコストも時間もかけて、時には商品化を断念することすらあります。商品はメーカーにとって命です。そこを模倣されることは企業の存続にかかわります。
沈黙も、見過ごすこともできません。この類の事案には真正面から対峙することが大事と考えております。
(終わり)