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2014年01月07日

ネットスーパーで儲けるには

「“儲からないネットスーパー”から脱却する――
 優良ネットスーパーに見る、商圏設定のあり方と、店舗との協業視点」

池田 満寿次
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員

 「なかなか儲からないですね」――。首都圏で数年前よりネットスーパー事業を展開する担当者はこう漏らす。順調に利用は増えているもののコスト負担が大きく、黒字化には程遠い状況という。ニーズがあるのに収益に結び付けることができないというジレンマに直面するネットスーパーは少なくない。

収益の足かせとなっているのは、配送コストの大きさだ。多くのチェーンでは、実店舗の商圏から離れたところに居住する顧客も獲得しようと、配送範囲を遠方に広げているケースが多い。ただし、遠方にまで配達しようとすると、配送効率は当然低下する。その結果、配送コストが増し、採算悪化に陥る構図が続いている。

 多くのチェーンでは、ネットスーパーへの利用ニーズの強さを実感しているのも事実。コスト構造を見直し、利益を捻出するモデルを確立できるかどうかがカギとなる。こうした中、試行錯誤を経て、ネットスーパーの収益改善につなげるプレーヤーも登場している。

その一つが、イズミヤ(大阪)だ。約10年前にネットスーパーを開始して以降、長らく事業赤字が続いた同社は、近年、営業体系を抜本的に見直した。着手したのは配送エリアの大幅な見直しだった。これまでは広範囲に渡り配達していたのを取りやめ、配送エリアをイズミヤ店舗の近隣に限定した。配送エリアを狭めれば、配送車両1台で配達できる個数は増える。配送効率を向上させることで、コスト削減を図ったという。

商圏が狭まる不利を補うべく、販促活動も見直した。チラシ配布などを通じて勧誘を強化したり、月額利用料を支払えば、配送費はタダで何度でも利用できるコースを導入し、固定客の拡大に努めた。こうした取り組みが実を結び、事業採算が大きく改善したという。

 配送コストを低減する観点から、自社店舗の近隣に限定して営業するというのは合理的な試みではあるものの、そう簡単な判断ではない。店舗の近隣商圏でネットスーパーを営業強化するということは、店舗の顧客を奪うというシナリオも想定される。

イズミヤ社内でも「店舗事業と競合するだけではないのか」、といった声が当初あったそうだ。そこで、イズミヤ店舗の近隣に居住する人がどの程度、来店利用しているのかを調べたところ、予想を大きく下回るシェアであることが明らかになったという。ネットスーパーの投入により、イズミヤ利用者を増やす効果の方が大きいと判断し、店舗近隣に限定したネットスーパー事業を推進した。

 都市部を中心に、業態の垣根を越えた顧客獲得競争が依然続いている。競合がひしめく商圏下で、自社店舗だけがシェアを拡大するというシナリオはもはや描きづらい。一方、ネットスーパーの場合、自宅に商品を届けるという利点を武器に、店舗だけでは捉えきれなかった顧客を獲得できる可能性も秘める。悪天候の日は店舗の客足が鈍る半面、ネットスーパーの利用が増えるというのは、利用ニーズの異なることを示す、わかりやすい一例だろう。

イズミヤでネットスーパー事業を担当する田中和伸氏(eコマース営業部・マネージャー)も「店舗とネットスーパーが共闘して、商圏内でのイズミヤ利用者を増やしていく考え方が重要。近隣の競合店舗にネットスーパーがなければ、ネットスーパーを持つ自チェーンが競争上有利にもなる」と、店舗を補完する役割が強まっていることを指摘する。

 単独事業としてはあまり儲からないとの烙印を押され気味のネットスーパーだが、店舗事業を補完する「武器」と見れば、事業としての位置づけもまた変わる。広げ過ぎていた配送範囲が適正化し、「儲からないネットスーパー」から脱却する契機にもなり得る。

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