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2013年12月18日

【サーモス社長 インタビュー】 「新提案は途切れずに」 樋田章司氏

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樋田章司・サーモス社長

魔法瓶の機能を活用して温かい自前のお弁当が食べられる――フードコンテナーを使ったランチのレシピ本が出版各社から発刊されてます。ブームを作ったサーモス(東京都港区、http://www.thermos.jp/)。かつては自社製品の製造図面を引いていたという技術系出身の樋田章司社長をインタビューしました。消費者への提案は途切れずに、しかも省エネ型社会にも貢献できる商品開発に力を入れていくという。

――サーモスの最近の動向を。
樋田 2012年秋以降、弁当箱・フードコンテナーが話題に上りました。保温力を活用した料理のレシピ本が今年2月時点で、11誌から出版されています。朝、食材と熱湯を容器に入れて職場へ携帯すればランチタイムには熱々の食べごろの料理に仕上がっている。「一人前」が簡単に保温調理できる意外性や便利さがマスコミで取り上げられ、市場を形成しています。フードコンテナーは09年ごろ、日本の弁当スタイルに合わせた提案をしました。温かい弁当が食べられるという楽しみから、保温力で調理ができる使い方に広がった。
フードコンテナーは昔からあり、米国ではスープやヨーグルト容器として使われてきたのですが、日本では食文化の違いから受け入れてもらえなかった製品でした。保温機能は同じでも食文化の違いを織り込んで違う用途へと作り込む視点や市場特性を読み解くマーケティングや発想が大事です。
もう一点、保温・保冷機能の「タンブラー」は今年夏から急激に伸びてきました。お客さまが体験した「不思議」や「驚き」をツイッターやブログで発信したことが強い説得力になりました。 タンブラーは以前からギフト市場向けにいろんなタイプを販売してきましたが、実需として火が着いたのはインターネットからの発信がきっかけでした。

――サーモスとは、どのような企業姿勢なのでしょうか。
樋田 断熱技術を便利性だけにとどまらせない製品やサービスの提案です。環境に配慮し、省エネ型社会の中で貢献していきたいというのが当社の企業理念です。
魔法瓶機能のある代表的な製品は当社が提案してきました。「価値は進化させるもの」として製品開発に臨んできました。戒めてきたのは、他社がやってきたものをアレンジし、これを自社製品とする姿勢でした。これではコスト競争に陥ってしまい、苦境から脱出できなくなります。こうした競争のもとでは新しいものは生まれにくく、企業は利益を出せなくなる。製品開発への投資もできず、モデルチェンジなど小手先の開発に終始してしまう。悪い循環の始まりです。

――そうした姿勢は製品にどう反映されてきたのでしょうか
樋田 魔法瓶は本体とふた・コップという簡素な構造だけで百年程度の歴史を有してきましたが、この状態からどう脱皮するか――「一家に1本」から、一人1本へ、さらに一人で2本〜3本へと引き上げるには個人使いがいかにあるべきかという視点が大事でした。
「冷たい飲み物は直飲みボトルで」と提案したが、当初、見向きもされなかった。PETボトル飲料が普及しており、携帯用魔法瓶がその影響を受けてたころで、「ステンレスボトルの需要は一巡した。これまでのようには売れなくなるのでは」とも言われていた。

半面、PET飲料の普及で、ボトルをそのまま口にする飲み方への抵抗感が薄まっていました。このため直飲みの保冷タイプのボトルが受け入れられるようになった。2004年から05年に起こった猛暑の熱中症対策も直飲み保冷ボトルの売れ行きを後押ししました。
 れから2年後、節約志向がマイボトル・ブームを引き寄せた。この製品も以前から販売していたのですが、市場で認められるには5年〜10年を要しました。社会的な背景が追い風となり、生活の道具として定着していきました。

――ベビー用では育児の段階に沿った提案をしてます。
樋田 「ベビーケア」シリーズは子どもの誕生から幼児までの成長期に必要なアイテムを系統立てて商品化しています。
出産直後では粉ミルクの湯を保温するボトル。離乳期には保冷機能のある製品を投入。9カ月前後の赤ちゃんには自分の両手でつかみながら飲み物を飲むためのマグ。1歳半児には保冷力の高いストロー・取っ手付きのマグが外出時にも便利です。自分の飲み物は自分で携帯できるストロー付きボトルへと移行してもらえます。

――「ドロップ」という果汁やコーヒー、茶などを自分の好みの温度や濃さにアレンジできる飲み方を提案されましたね。
樋田 11月5日、首都圏で先行販売しました。これはサントリーとの共同開発品で、コンビニエンス・ストアで売られているのも特徴です。飲み物を自分流にアレンジしながら楽しんでもらう提案です。ケータイマグなど従来品はコンビニ店で売れる単価ではなく、進出もできなかったが、新提案が消費者の各自の好みにどこまで届くか動向を見ていきたい。

食生活のスタイルは徐々に変わり、それに合わせた提案をしていくことが大事です。一時的なブームなのか、文化として定着していくのかの見極めが重要で、文化として定着するよう追求していかなければいけません。単に新しい製品というだけでは生活の中に定着しないでしょう。
他社製品との違いがはっきり見られなければ生き残れなくなるでしょう。ほんとうに便利で生活をする上で欲しいものは多くはなく、それを探っていくのは難しいことです。

――ブランドを大事にする企業と受け止めていますが。
樋田 ブランドはお客さまからの信頼のしるしとするなら常々、ブランド評価は高めておかなければ、製品の高い評価は得られない。信頼度が高ければ提案も受け入れてもらえやすい。良品であってもブランドが浸透していなければ、製品や企業を理解してもらいにくいでしょう。
1989年、保温調理の「シャトルシェフ」を発売した当時、当社の知名度が高かったのならもう少しスムーズに受け入れてもらえたかもしれません。

――当面の課題は。
樋田 新製品が創出される余地は徐々に狭くなってきました。そうしたなかで、製品や提案をどう進化させるべきか。当社は保温・保冷調理の技術を活用した道具を求めていきます。生活のなかで求められているものは何かを探っていきます。
もとの枠にとらわれず、広い視野で提案をしていきたい。あと一つは、電力不足が声高に言われるように、省エネ意識を念頭に提案していきます。